さつま通信

2011年3月16日水曜日

第1章002:オレンジビーチ - スリーデイズメイビー

 見習士官は新品少尉になる直前の頼りにならない存在ではあったが、その天真爛漫さと任務への情熱によって北村は中隊のマスコット的存在ともなっていた。

 猛暑の中での作業に他の将校らと同様、北村もまた作業に率先して打ち込み、休憩は一番最後に取るといった幹部らしい姿勢を健気に貫いていたから、ベテランの下士官達もその意気に感じて彼をよくかばいながら支えるのだった。

 香月上等兵は水戸出身、竹を割ったような一本気な性格で気性も激しかったが、一種独特な諧謔味のある人柄で若い兵士達をよく指導し引っ張って任務に邁進させていた。

 彼もまた、北村士官候補生を慕い支える一人だった。

 短気な彼はよく作業中の島民を張り飛ばしたりもしたが、彼らの休養にもまた人一倍気を使いながら、粗野な言動とは裏腹に作業の進行状態と陣地の強度に細心の注意を払っていた。

「見習士官殿」

小休止に香月上等兵が声をかけた。

「混戦に持ち込まないと勝ち目はありませんので、敵さんを引きつけるだけ引きつけてからじゃないと射撃できません」

十重二十重に島を取り囲む艦船からの砲撃と、わが物顔に乱舞する飛行機を使えなくするためだなと思った北村は頷いた。

「この地下壕から」と香月は掘り抜いた壕を指さして「敵さんが思いがけない瞬間に手榴弾をお見舞いしてやりましょう」そう言って微笑んだ。

「戦闘には慣れはありませんが慌てたり怯えたりすれば危険が増します」

「自分が言うのもなんですが見習士官殿が教育を受けられたとおりにはいかないと思いますのでともかく落ち着いて状況をごらんになってください」香月は続けた。声に思いやりが滲んでいるのを感じ取った北村は素直に笑顔を返した。

「ありがとう 香月上等兵 アメリカに一泡吹かせてやりたいね」

 日焼けした顔の口元からこぼれる白い歯が、まだ僅かに残る少年らしさを漂わせていた。

0 件のコメント:

コメントを投稿