さつま通信

2011年6月1日水曜日

第7章001:オレンジビーチ - スリーデイズメイビー



 各部隊に別れて中央高地帯に撤退しながら、地下坑道陣地での戦闘が始まった。上陸前から、あらかじめダイナマイトを使って掘り下げた縦穴に横穴が連結され、上下の戦闘を行ったが、敵の爆

 雷攻撃を頻繁に受けても上に吹き上げるだけで被害は少なかった。

 飛行場から離脱してきた青山少尉達も、今は坑道陣地に拠って戦闘を続けていた。

 縦穴の底には鋼材の先端を尖らせた手製の槍を植え込んだ箇所を作った。引きずり込んだ敵を串刺しにするためだった。先端に毒を塗った吹き矢も準備した。これは夜戦で音を立てずに顔面や首筋を狙うためだった。

 倒れた敵から奪った手榴弾はそのまま仕掛け爆弾として利用した。遺棄死体を敵は必ず回収にやってくるので、戦闘後に素早く仕掛けを作り、遺体を動かすと数個の手榴弾が連鎖して爆発するようにした。

 小人数が囮となって、縦穴の入り口をうまく偽装した罠へ敵をおびき寄せ、落とし穴にかからせて串刺しにもした。

 地面に近い横穴に待機していて、頭上を通り過ぎる足音を頼りに地上に瞬時に身を躍らせて、銃剣を投げつけて敵を倒したり、手榴弾を足元へ転がしたりした。

 敵は縦穴入り口を発見すると、自動小銃を乱射した後で多くの爆雷を投げ込んできたが、当初からの予想どおり上へ吹き上げるだけで、横穴へ入ってしまえば被害はさほど出なかった。

 ともかく、撃っては隠れ、隠れては撃って、敵の神経を磨り減らさなければならない。長期持久という目標は、陸海を問わず地区隊将兵の末端にまで行き渡って、そこかしこで神出鬼没の粘り強い戦闘が展開されていた。

 周囲から敵の気配が無くなり、エンジン音が遠ざかると決まって定期便のような艦砲射撃がやってくる。耳をつんざくような爆破音が轟き、陣地が潰されるかと思うほどの振動が腹の底から突き上げてきて、地上には幾千もの鋭い破片が荒れ狂うシャワーのように吹き散らされ、地上に身を曝したままでいれば瞬く間にズタズタに引き裂かれてしまうのだった。

 艦砲射撃を浴びた後の戦場には、正視に耐えないむごたらしい様子の死体の切れ端がちらばっていることが多かった。地下壕や洞窟陣地への退避が遅れて殺された若い多くの兵士達。

 呻く重傷者をなんとか救おうとする間もなく、今度は艦砲射撃と交替するように上空に爆音を轟かせて雲霞のような敵機が乱舞し始め、増加タンクと呼ばれたナパーム弾を、地区隊の対空放火の不在を嘲笑するかのように大量に落とし始めるのだった。

 やむなく救出を中止して陣地へ潜れば、悪魔の舌のような炎の帯が縦横無尽に地を舐め尽くし、重傷者も死者も、つい先ほどまでは人体の一部だった散乱する肉片までも、総てを焼き尽くしていく。

 生者は焼き殺される前に窒息させられるのだ。延びてくるナパームの炎は酸素を貪欲に漁り、まるで絞め殺すように命を奪った後で念入りに焼き尽くすのだった。

 あれほど美しかった緑の島は見る影もなく黒焦げになり、殺戮と破壊に飽きることを知らないような敵は、無尽蔵とも思える砲爆弾を惜しげもなく注ぎ込んでは物量の差を誇示しているかのようだった。

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